完全燃焼の笑顔をグラウンドに残して、彼らはクリーム色のユニホームを脱いだ。6月18日、金沢市民球場。今春のセンバツ高校野球で8強進出を果たした星稜が、金沢工と引退試合を行った。3年生部員27人のうち15人が、一足早い「最後の夏」に区切りをつけた。

 本当なら、この舞台に立ちたくはなかっただろう。センバツで「背番号9」をつけていた今村亮太も、5番・センターで引退試合に出場した。1週間前のチームミーティングで、林和成監督(42)から「夏の大会のベンチには入れない」と告げられた。「メンバーとして100回記念大会に出たかったので、やっぱり悔しかったです」。センバツ開幕直前の練習で、右手中指の骨にひびが入った。センバツでは、出場機会はなかった。練習を再開できたのは、5月半ばになってから。2か月超のブランクは、あまりに大きかった。

 悔しさを振り払うようにフルスイングし、2安打を放った。「最後まで全力でやることができました。選手としては最後の試合となったが、悔いはないです」。一塁側スタンドでは、両親が最後の雄姿を見届けていた。「親に自分の全力プレーを見てもらえてよかったです。野球ができる体に産んでもらって、感謝の気持ちでプレーしました」。瞳には、汗と涙が入り交じっていた。卒業後は野球は続けないというが、G党の今村は「将来は、東京ドームで働けるような仕事がしたいです」と夢を打ち明けてくれた。

 8番・キャッチャーでフル出場した小布施(こふせ)承太郎。昨年8月の新チーム結成と同時に指揮官から打診されてマネジャーとなり、チームを支えてきた。いつもは記録員として、制服姿でベンチ入りしている。この日は「背番号2」のユニホームを着て、グラウンドを駆け回った。打席に立つと、3年生のレギュラーメンバーからの「思い切っていけよ!」という声援が聞こえたという。5回の第2打席に右越え適時二塁打を放つなど、3安打2打点と大暴れ。「こんなに打てるとは思っていなかった。悔いなく終われてよかった。本当にやりきりました」

 子どもの頃から、甲子園に出ることが夢だった。その夢を叶えるため、星稜中に入学した。中学時代は、正捕手として活躍していた。しかし高校に進むと、「1つも2つもレベルが上でした…」。後輩には、中学で全国制覇を果たした捕手も入学してきた。162センチ、62キロの小さな体で努力を重ねたが、一度も公式戦に出場することはできなかった。「ずっと憧れだった星稜のユニホームでプレーできたことは誇りです。この試合は、ずっと忘れることはできないですね」。泥まみれになった笑顔が、輝いていた。

 練習の取材で星稜グラウンドを訪れると、いつも小布施君が「おもてなし」してくれる。暑い夏には氷でキンキンに冷えたアイスコーヒー、雪深い冬にはぽっかぽかのホットコーヒーをごちそうしてくれる。ホットコーヒーを注ぐ前にカップを熱湯にくぐらせ、黙々と手のひらでカップを包んで温度を確かめている姿も目にした。「お客さんに気分良くなってもらって、また来たいなと思ってもらえるように、どうしたらいいかを考えています」。その気配りで、名門野球部の根っこを支えている。

 大学進学後は、選手ではなくマネジャーとして野球部に入るつもりだという。「将来は中学か高校の教員になりたいです。できれば野球部の指導者にもなれればと思っています」。心のこもった指導で、素晴らしいチームを作ってくれるだろう。

 林監督は、自らの心に因果を含めてこの日に臨んでいた。「3年生にいわば最後通告することになる。1年間で、一番つらいことですね…」。選手たちの努力と汗の蓄積を誰よりも知っている指揮官にとっても、苦しい決断だった。「ただうちの歴代の3年生は、ここで腐る子もいないですし、よりチームの結束も強まる。この試合が終わったら、いい形で夏を迎えられる。そういう価値がある試合だと思います」

 11―12で試合には敗れたが、15人の3年生は間違いなくこの日の主役だった。第100回全国高校野球選手権石川大会は、7月12日に開幕する。グラウンドには立てなくとも、そこにしっかりと魂を置いてきた。彼らの「最後の夏」は、まだ終わっていない。